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朝鮮側から見た「日本の歴史」歪んだ歴史認識をえぐる 尹健次、週刊金曜日1995.7.7号

尹健次週刊金曜日1995.7.7 第81号 P8-P11より引用。
ーー
 アジア侵略の背景にある蔑視感
P9近代国家の建設は共和制・民主主義によってではなく、徳川幕府にかわる封建的権威の天皇を利用することによって、いわゆる天皇制国家の創出という方向で成し遂げられていった。
(略)その際、天皇の権威とは、『古事記』や『日本書紀』にある古代天皇に関する記述がすべて歴史的事実であるとする神話伝説の正当化に基づくものであった。のみならず、幕末以降の「日本」国家が、自らのカの不足を朝鮮・台湾・「満州」などへの侵出でカバーしようとする路線を採択したことから、その国民形成は必然的にアジア蔑視観を国家の「イデオロギー」として注ぎ込むものとなっていった。(略)この場合、日本で朝鮮蔑視の考え方が現われだしたのは、歴史的には古代天皇制の確立期においてであり、神功皇后の〞新羅征伐〞や〞三韓征伐〞も、『古事記』『日本書紀』にはじまる伝説である。一六世紀末の豊臣秀吉の朝鮮侵略に際しても、神助皇后伝説などが侵略を正当化するものとして使われた。
 日本人のアイデンティティをつくった三本柱
 (略)これを国家のイデオロギー装置である国民教育の問題として捉えるなら、西欧崇拝思想、天皇制イデオロギー、アジア蔑視観の三本柱で、「日本人」のアイデンティティを作り上げていったことになる。(略)実際、維新初期の一八七三年秋、明治政府の内部でおきた「征韓論争」も、その対立の中身は「征韓」の是非ではなく、その時期と方法に関わるものであった。つまり一般的には、維新政府の首脳であった西郷隆盛が「征韓論」を強硬に主張し、大久保利通が反対したとイメージされているが、現実には、「征韓論」は、没落した士族層の扱いや藩閥政府批判その他の国内政治問題に対朝鮮政策が加わった政府指導者間の争いであった。結果的には、西郷が敗北して下野するが、政権内部を固めた大久保は逆に一八七四年の台湾出兵の後、翌七五年に江華島事件を引き起こし、朝鮮への軍事力を行使した。この江華島事件は、日本海軍の雲揚号が測量の口実で江華島に接近し、砲台を攻撃して陸戦隊まで上陸させたもので、まさしく日本政府の計画的挑発であり、その後の朝鮮侵略の始まりであった。翌七六年の江華条約(日朝修好条規)調印、八二年の壬午軍乱、八四年の甲申政変など、朝鮮をめぐる重大事件も、そのほとんどは日本の侵略的野望と絡まったものであり、(略)
P10 朝鮮侵略としての日清戦争
 一般には日清戦争は、アジアでの覇権をめぐる日本と清国の争いであったと理解されており、せいぜいその戦場が朝鮮であったという程度の認識であろう。しかし事実は、日清戦争なるものは、日本の朝鮮侵略、つまり日本軍による甲午農民戦争(農民蜂起)への一方的介入と朝鮮王宮占領=「日朝戦争」につづく戦争であり、「日清」戦争のみを強調することは、かえって日本の朝鮮侵略の事実を曖昧にし、隠蔽することにつながりかねない。
 いまそれと関連して、近代日本の思想形成に大きな役割を果たした福沢諭吉について述べるなら、彼は「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という言葉でよく知られているように、封建的門閥制度のきびしい身分差別を批判し、すべての人間の平等と自由独立を高らかに謳いあげた人物である。今日では一万円札にも刷りこまれている「偉大な思想家」であるが、しかし日本の侵略を受けた朝鮮側からすると、その福沢は、日本の対外侵出を推し進めた侵略主義者として映る。
 当初、福沢にとって朝鮮は、日本の指導のもとに近代化を推し進めるべき国であったが、やがて朝鮮をめぐる列強問の勢力争いで日本が大きく後退させられるや、一転して朝鮮への武力行使もやむなしと主張するようになった。福沢においては、日本の経済的危機や自由民権運動などによる政治的混乱を脱するには国権の拡張が不可欠であると考えられたのであり、福沢の使命はそのための思想を切り開くことであったが、それは朝鮮蔑視観の造出につながるものであった。一八八五年の「脱亜論」はその集約であるが、そこでは朝鮮・中国などアジア(亜細亜)との「連帯」がはっきりと否定され、欧米列強に伍していくことが日本の進路であると主張されている。
 民衆の抵抗運動を弾圧
(略)こうして一九〇四年二月、日本艦隊が仁川沖のロシア艦隊を奇襲して、日露戦争がはじまる。朝鮮政府の局外中立宣言を完全に無視して、首都の漢城を軍事的に制圧し、さらに朝鮮政府に一方的に「日韓議定書」、ついで「第一次日韓協約」を強要し、朝鮮政府内に日本人顧問を配置した「顧問政治」を開始した。(略)
 この民衆の抵抗運動に動かされて、朝鮮の高宗皇帝は最後のカをふりしぼって、一九〇七年六月にオランダのハーグで開かれた万国平和会議に密使をおくり、日本の暴虐を世界に訴える挙に出た。
 しかしこれは結果的には、日本の狡猾な妨害によって不成功に終わっただけでなく、日本は逆に、これを機に朝鮮の内政の全権を掌握しょうとし、七月に初代統監伊藤博文とそれに操縦された親日派の李完用内閣が、南京に譲位を迫って、新皇帝に皇太子の純宗を即位させるとともに、統監伊藤は李完用内閣と「丁未七条約(第三次日韓協約)」を調印した。
これを契機に朝鮮の軍隊は解散させられてしまうが、それは当然、朝鮮軍人その他の朝鮮民衆の憤激を呼び起こし、全国的な武装闘争の展開となった。しかし日本は、そうした義兵鎮圧のために軍隊・憲兵・警察をさらに強化し、近代武器で殺我を繰り返し、村落を焼き払う焦土作戦を展開した。
 「日韓併合」の意味するもの
 こうした民族運動弾圧の経緯をへて、日本が朝鮮の完全植民地化の方針を決定したのは一九〇九年七月の閣議においてである。朝鮮の侵略の先頭に立ってきた伊諜博文がハルビン駅頭で安重根に射殺されたのは同じ年の一〇月のことであり、また日本が厳戒体制のなかで「韓国併合条約」を強要したのは翌一九一〇年八月のことであった。(略)
「韓国併合」後の「日帝三六年」がそうであるように、歴史というものは、被害者の立場に立ってこそ、はじめて真実を知りうるものである。(略)しかし朝鮮側からすると、伊藤はあくまで「侵略の元凶」であり、「初代韓国統監」である。しかも朝鮮人にとっては、当時「凶徒」と呼び捨てにされた安重根こそは、かつて豊臣秀吉の水軍を破った李舜臣将軍と並ぶ「民族の英雄」である。
 侵略を教えない学校教育
 こうした歴史認識の事実を知るとき、ききの国会決議の際にも発せられた、日本は「アジア解放戦争」を戦ったのだという政治家などの言説がまったくの詭弁であり、それが近代日本の歴史の一面、それも自己に都合の悪い部分を故意に切り落とした理屈にしか過ぎないことがわかる。そこには欧米列強の脅威のみを過大に取り上げ、アジア侵略の事実を否定する自己欺瞞と被害者的意識がみられるが、それが天皇制ないしは天皇制につらなる一元的かつ自民族中心主義的な価値観に囚われ、また歴史的に形成されてきた朝鮮を核とするアジア蔑視感と微妙に絡まったものであることは容易に推察しうる。また一九四五年八月の敗戦後、日本の学校教育が朝鮮などアジア諸国への侵略の事実を正当に教えなかったことが、今日の日本人の歪んだ歴史認識の根本要因となっていることも議論の余地がない。当然、そこには、過去の侵略戦争と植民地支配の事実を日本人のアイデンティティ形成から抜き去ることによって、天皇その他戦前来の指導者や支配層の戦争責任を暖味にしようとする権力主義的な目論見があり、それは今日にも引き継がれていると考えてよい。つまりさきの国会決議に見られるように、戦後の日本ではいまだ「謝罪」や「反省」が真の意味でなされたことは一度もなく、歴史認識の問題がつねに政治の駆け引き材料とされるなか、日本人全体の歴史認識は一貫して歪んだものとなってきたのである。
ーー
ゆん こぉんちゃ・神奈川大学教授。専攻分野は、日本近現代思想史、教育思想。一九四四年
京都府生まれ。
ーー
引用終わり、著作権は週刊金曜日にあります。全文はこちら、ダウンロード<開く
ーー
日本と朝鮮半島への侵略行為と朝鮮蔑視感の源が簡潔に記され、理解しやすかった。元寇や朝鮮通信史など昔からの朝鮮半島関連の年表を作成しようと思う。それにしても戦前日本が朝鮮半島や台湾を植民地支配していた事実を認識していない日本人が多いのではないだろうか。上記の通り学校教育が原因である。最近跋扈している右派の教科書の取り上げ方はいかに。
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