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間違いだらけの「中国脅威論」 田岡俊次 週刊金曜日2008.1.11号

週刊金曜日685号 P18か~19より引用。
無知からか、あるいは意図的にか、ここ数年タカ派ならぬ「パカ派」が論じている「中国の脅威」は、国際常識と軍事的視点から見てこっけいだ。しかし自衛隊も悪乗りして、予算獲得の名目にしている。
田岡俊次
終戦しばらくブラジルの日系人に、「勝ち組」と呼ばれる人々がいた。第二次世界大戦が終わってもまだ「日本が米国に負けるはずがない、戦争は続いている」と信じ、敗北の事実を認めるべきだとする「負け姐」との問に対立抗争事件まで起きた。現在冷戦がとっくに終わったにもかかわらず、いまだに「中国脅威論」や新冷戦説を唱えている論者たちは、現実を見ることを拒否し、冷戦型思考から脱却できないという点で、「勝ち組」に似ている。
 彼らのおかしさは、いまだに「中国は共産主義だ」と思い込んでいる点にある。中国は憲法を改正して私有財産保護をうたい、上海と深センには証券取引所がある。実態は「共産主義」どころか、露骨な資本主義だ。その結果腐敗が蔓延したため、是正するためにかつて批判された儒教が奨励されている。中国政府が日、米、西欧、アジアの大学と連携し、五四カ国に一五六校も開いている中国文化センターは、「孔子学院」と名付けている。江沢民前国家主席は、一九九九年に孔子廟に参拝している。こんな「共産主義」があるのか。
冷戦期には、米国を中心とした西側と、旧ソ連や東欧の東側が対立したが、有力資本主義国の一つとなった中国が米国と対立しているのか。中国には米国から進出した企業が二万二〇〇〇社あり、中国の対米貿易黒字の大半はそれが貢献している。また中国は日本に次ぐ米国債の保有国で、五〇兆円以上ある。保有している一兆三〇〇〇億ドル以上もの外貨は、ゴールドマン・サックスやメリルリンチといったウォールストリートの巨大金融横関に運用を任し、米国側にとっては最大の顧客だ。
 米国の軍事企業の中核を占める航空横産業を見ると、中国はボーイングの旅客機を年一五〇機も買っている。ウォールマートをはじめとする巨大流通産業は、安価な中国製品に支えられている。米国経済の主流である金融も軍需産業も流通も、中国と極めて密接な関係にあるのた。さらに中国からエリート大学生を中心に年二〇万人も米国に留学し、工科の博士号を取るのか二〇〇〇人以上いる。しかもその多くが帰国せず米国の企業に就職しているから、錯局ヒト・モノ・カネで中国は米国を支えていると言っていい。
 一方、中国にしてみれば、輸出依存度が三七%と日本に比べて二・五倍以上高く、輸出総額の二一・四%を占める米国の巨大な市場に頼らざるをえない。いまや米中は共存共栄関係にあり、軍の関係にも反映している。両国の海軍は、初歩的レベルだが共同軍事演習もやっている。米太平洋軍司令官のティモシー・キーティング海軍大将は、二〇〇七年五月に訪中した際、「中国が空母を保有しようとするのは当然。できるだけお手伝いをしたい」とまで発言している。
 六者協議でも、米国は議長国の役割を中国に委ねた。アジアの盟主として中国を認めたに等しく、対立関係にあるなら米国は決してそのようなことはしない。ところが日本はいまだ冷戦思考のままで「日米韓が連携し北朝鮮に圧力をかける」といった構図にとらわれ、孤立化して失敗したのは記憶に新しい。
 米中は台湾の現状維持でー致 
米国は当然ながら、台湾問題で中国と事を荒立てたくはない。そのため、台湾の陳水ヘン総統のように民族主義的発言をしたり、「独立」を口にして中国との関係を悪化させるのは迷惑この上ない。中国をとるか、台湾をとるかという選択を迫られるのは避けたい。
 台湾では、中台関係について「現状維持」を望む世論が八割以上で圧倒的だ。「独立」派や国民党の一部のような「統一派は、少数派に過ぎない。中国も一見勇ましいことを言うが、〇五年三月に制定された「反国家分裂法」をよく読むと、「これ以上何かやると許さん」と言っているだけで、本質は現状維持法だ。米国は台湾について中国と利害が一致しているから、陳水ヘンに対してば厳しいスタンスで
臨み、「独立」めいた動きに対して北京より激しい非難声明を出す。今や中国にすり寄る「媚中・叩頭外交」を最も展開しているのは、米国ではないかと思うほどだ。
 ところが日本には、「中国は台湾侵攻を狙っている」「米国と共に台湾を守ろう」などと主張している論者が大勢いる。そもそも、経済発展を第一の目標とする中国が、いったい何の益あって台湾を制圧するのか。台湾の最大の投資相手国はもちろん中国で、七一%を占める。二〇〇万人もの台湾人が大陸で企業経営や技術指導を担っている。侵攻など企てればそうした貴重な経済関係や生産設備を互いにダメにし、さらには華僑や外国資本の逃避も始まる。これまでの経済成長が一挙に無となろう。
 しかも、軍事的に侵攻はまず無理だ。台湾は現役だけで三〇万人の兵力を有し、予備役を動員すれば軽く六〇万人を超える。すると攻める側の中国側は最低で六〇万人以上を台湾海峡を越えて送り込まなければならない。「史上最大の作戦」と呼ばれるノルマンジー上陸作戦でも、上陸したのは一七万人だ。中国の揚陸能力は、二万〜三万人。六〇万人の兵力を送る上陸作戦は、途方もない話だ。当面は、近代的軍事能力の差から制空権も制海権も握れまい。仮に海上封鎖のような行動に出たら、現在は海運が多国籍化しているので世界中を敵に回す結果になる。
 よく指摘されるのが「中国の軍事費の急増」だが、どの国でも経済のパイが膨れれば財政規模も、軍事費も伸びる。中国の軍事費の伸びは、高度成長期の日本の伸びより若干低い程度だ。「急増」なら、九〇年代の台湾の方がもっとすごかった。約一〇年間で新型の戦闘機を三四〇機買ったため、訓練、整備に支障をきたしたほどだった。
 予算目当てで浮上した「島蝶防衛」 よく「中国海軍の脅威」も語られているが、〇七年一一月に東京湾に「友好訪問」した中国駆逐艦・深センに乗船してみて驚いた。日米は太平洋戦争中に火災で多くの艦を失った経験から、艦内から極力可燃物を排除する。ところが深センは、可燃物だらけなのだ。部屋のドアは木製で、廊下や下士官室にはアクリルのカーペットが敷いてある。テーブルなど家具も木製で、すべて金属製の日、米の艦とは大違いだ。中国は、一八九四年の日清戦争の黄海海戦以降、本格的海戦の経験がない。こうした笑いたくなるような海軍が、「日本を軍事挑発」するだの、「米海軍に挑戟」しているなどといった昨今の論議は、海軍に関する無知から来る。だが近年、陸上自衛隊が「島摸防衛」と称し、明らかに中国海軍を念頭に「西南諸島が占拠される」といった事態を想定している。中国が台湾に侵攻するにも力不足なのに、わざわざ日本の離島を攻撃し、日、米を敵に回すことがあろうか。
 自衛隊のレンジャー(特殊部隊)でもハワイあたりの小島を米国の油断を突いて一時的に取ることは可能かも知れないが、制制海権も制空権も欠いていれば、その後どう維持するのか。だが、笑い話ではすまない。「島嶼防衛」用にC130輸送横を改造し空中給油装置を取り付け、ヘリコプターにも受油装置を付ける予算がつけられた。
 陸上自衛隊は作戦計画を毎年作るが、冷戦が終わって「脅威」がなくなり、困っていた。作戦計画を基に装備を開発したり、部隊を摘成する。作戦計画を作るには、敵を決めなくてはならない。敵を必死で何とか探さなくてはならない。それで旧ソ連の後任に中国が登場した形だが、軍事的にはまったくナンセンス、政治的、経済的には国益上有害だ。中国の唯一の脅威は核ミサイルだが、六五年からある。それを知りつつ日本は国交を樹立し、核不拡散条約にも加入した。今になって騒いでも、どうにもならない。
 今後さらに世界は相互依存関係が深まり、米中はますます接近する。米軍のアジア離れも始まり、沖縄から第三海兵師団、韓国からは第八軍を撤退させる計画だ。二〇一二年までに米軍が韓国軍に有事の指揮権を返還するのも、「もう米軍は朝鮮半島では戦わない」ということを意味する。そんな時代に、わざわざ中国を「脅威」に仕立てるのは愚の骨頂だ。
(談)
ーー
たおか しゅんじ・軍事アナリスト。 (以上引用終わり)
ーー
安保論議が喧しい昨今、元AERAスタッフライターの田岡元帥のご高説もウォッチします。パッキンジャーナルも終わり、最近TVで見ないですね。
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