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強制連行されて日本で暮らす朝鮮人の実態を見る

 週刊金曜日1994.11.4号より引用。P51~P53 金蓉子
 神奈川県横須賀市でひとり暮らす在日朝鮮人、李周鎮さん(七二歳、朝鮮籍)は、一級障害者である。
戦時中の強制労働でのリンチがもとで右胸の肋骨七本を失い、右耳もよく聞こえない。右肺はまったく使えない状態で、肺活量は一000以下だ。当然、老齢福祉年金か障害基礎年金が支給されるはずである。だがそれば日本人であればの話だ。
 李さんは以前、横須賀市役所の窓口に年金支給を願い出て、門前払いを食ったことがある。「身体が弱り、病院に行くのに金がなくて困ってだんだが、『朝鮮人にはやれない』といわれた。妻が日本人だったんで、『じゃーあ妻の分を』というと、『朝鮮人と結婚したからやれない』という。『それは国の判断か、それともおまえの判断か』と聞いたら黙っておったよ」。(略)
 虫けらのように酷使され
 四三年、朝鮮総督府から兄に徴用令が送られてきた。一家を支える兄の身代わりになった李さんが連行されたのは、福岡県の三菱炭鉱だ。当時「行けば生きて帰れない」のが炭鉱だった。二一歳のときである。(略)
 ところが翌年の三月、今度は自分の名で徴用令が来た。「徴用から逃れることはできない。強制連行と同じことだ」。都庁舎に集まった中から一〇〇人が、迎えにきた間組(現ハザマ)の手に委ねられた。日本の官憲による斡旋である。
 釜山から下関へ。一昼夜汽車に揺られ、たどり着いたのは雪深い秋田県神代駅だった。李さんたちはここで、渓谷の斜面に夏瀬ダム建設工事のための道をつける、危険な作業に駆り出された。(略)
 一カ月後、ハッパの暴発事故で仲間が死んだ。ただの肉の塊が、李さんたちの目の前に落ちた。死体も負傷者も、飯場には戻ってこなかった。李さんは脱走を決意する。リンチを受けたのは、その脱走に失敗したときだった。
 植民地支配が人生を奪った
(略)横須賀の街頭で保健所職員に呼び止められたのは、戦後一年半もたってからだ。レントゲン写真の右胸半分は真っ黒だった。肋骨に無数のひびが入り、肋膜に水がたまって化膿していた。一〇年にわたる入院生活、六回の胸郭成形街の末、七二年に呼吸機能障害と胸郭変形で身体障害一級の認可を受けた。もう、肉体労働はできない。
(略)なぜ国を奪われ、虫けらのように蔑まれたのかを知ったとき、初めて李さんの全身を激しい怒りが貫いた。何に対して怒ればいいのかを悟ったのだ。
文字を知らぬば。歴史を知らぬば」。たぎるような向学心が、どん底の李さんに生き抜く力を与えた。印刷業を始めたのも、文字を覚えるためだった。
 いま、李さんは「近・現代史のなかの朝鮮民族史を語る会」を、日本人とともに続けている。不自由な身体であちこちの集会に顔を出して講演もする。「日本の近現代史は朝鮮、中国を抜きには語れない。強制連行で連れてこられた一人として、若い人たちに私の体験を語り継ぎたい」
 歴史を知らぬことの恐ろしさや愚かきを知る者の、確たる信念が生きる支えだ。
 年金を出さぬのは差別だ
 東京都江東区に住む李末龍さん(七九歳・韓国籍)も、徴用で日本に連れてこられた。。もう五〇年以上も足の神経痛に悩まされている。福岡県飯塚市の炭鉱で働いていた時の重労働の結果だ。(略)
 日当は二円だった。だが「天引きで故郷に送金するから」と言われて、手渡されたのは一銭から五銭の半端な金だった。煙草をいくらか買うとなくなった。言葉も分からない。字も知らない。送金されているのかどうか、確かめる術もなかった。
 大東亜戦争が始まっていた。一年ほど炭鉱病院に通ったが、足は直らなかった。同じ地方出身の知り合いと一緒に脱走して宇部に逃げ、その後は土方をして生きながらえだ。
「日本全国を点々と歩いたよ。ダム工事やケーブル、電線工事と何でもやった。神経痛が痛くてたまらなかったけど、ほかに朝鮮人がやれる仕事はをなかったよ」(略)
 もちろん末龍さん夫婦に年金は出ない。長男は年金の掛け金を納めているから二重の負担を強いられていることになる。「税金は納めてきたし息子も納めている。でも、朝鮮人に見返りは何もない。好きでこの国にきたんじゃないんだ」
 末龍さんと同じ言葉を、在日朝鮮人なら誰もが噛み締めてきた。生活が苦しいから年金をくれというんじゃない。日本人と同じように年金が出るのが当たり前なんだ。朝鮮人だから出ない、というのは差別以外の何でもない」「人生を返してほしい」
 植民地支配という日本の国策が奪った人生の代償は、福祉の次元でさえ、いまだ支払われてはいない。

きむ よんじゃ・雑誌記者。一九六三年、長崎県生まれ。
ーー引用終わり。全文はこちら、ダウンロード<開く
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